対談:木の糸デニムの可能性について

木の糸デニム その他
木の糸デニム

国産セルロース繊維が拓くデニム産業の未来

聞き手:A氏/語り手:岩見


デニム産地で行われた木の糸の試作

A氏
最近、「木の糸」という素材が繊維業界で注目されていると聞いています。特にデニムとの関係で話題になっているそうですね。岩見さんは実際にデニム生地の試作にも関わっていると伺いました。

岩見
はい。広島県福山市のデニムメーカーに木の糸を提供し、デニム生地の試作を行いました。結果として、綿65%、木の糸35%という配合で問題なくデニム生地を織ることができました。

A氏
福山は日本を代表するデニム産地ですね。

岩見
そうですね。福山市周辺は、日本のデニム生地産業を支えてきた地域の一つです。岡山県の井原や倉敷と並び、日本デニムの重要な生産拠点です。海外ブランドにも生地を供給しているメーカーも多く、品質面では世界的にも高く評価されています。

その産地のメーカーが木の糸を使ってデニムを織ることができたということは、単なる実験ではなく、実際の産業の中で使える素材である可能性を示したという意味で非常に重要な成果だと思っています。


テンセルの代替素材としての木の糸

A氏
今回の試作はどのような発想から始まったのでしょうか。

岩見
実は、新しい素材として導入するというより、既存素材の代替として使えないかというところから始まりました。デニムメーカーでは、綿だけでなくテンセルという繊維を使うことがあります。テンセルは木材由来のセルロース繊維で、デニムの風合いを柔らかくするために使われることが多い素材です。

A氏
確かに最近はテンセル混のデニムをよく見かけます。

岩見
そうですね。ただ、このテンセルは基本的に海外から輸入している素材です。デニムメーカーは、テンセルの代わりとなる素材を探していたという話がありました。そこで木の糸を提供し、織ってみたというのが今回の試作の経緯です。

結果として問題なくデニム生地が織れたので、テンセルの代替素材としての可能性が見えてきました。


原料調達とサプライチェーンの問題

A氏
テンセルの代替として国産素材を使うことには、どんな意味があるのでしょうか。

岩見
一番大きいのは、原料調達の安定性です。繊維産業は原料の多くを海外に依存しています。綿花もほとんど輸入ですし、セルロース繊維も海外メーカーが中心です。そのため、為替変動や国際物流の影響を受けやすいという構造があります。

A氏
最近は円安の影響も大きいですね。

岩見
そうですね。円安になると輸入原料の価格が上がります。繊維産業は原料比率が高いので、その影響を直接受けます。またパンデミックの時には物流が止まり、原料が入ってこないという問題もありました。

もしセルロース繊維の一部を国産化できれば、こうしたリスクを減らすことができます。これは単なる素材の話ではなく、繊維産業のサプライチェーンの問題でもあります。


森林資源と繊維産業

A氏
木の糸は森林資源から作られる繊維ですね。

岩見
はい。木材からセルロースを取り出して作る繊維です。日本は国土の約7割が森林ですから、木材資源は非常に豊富です。ただ、これまで木材利用は建材用途に偏っていました。

しかし、木材の主成分であるセルロースは繊維としても利用できます。実際、レーヨンやテンセルなどの再生繊維は木材を原料にしています。つまり森林資源は繊維産業の原料にもなり得るということです。


デニムの環境問題

A氏
デニムは環境負荷が高い衣料として議論されることもありますね。

岩見
そうですね。綿花栽培では大量の水が使われますし、染色工程でも水や化学薬品が使われます。またストレッチデニムには合成繊維が使われることが多く、洗濯時にマイクロプラスチックが発生する問題もあります。

木の糸はセルロース繊維なので、生分解性があります。石油由来の合成繊維とは違い、自然環境で分解される素材です。そういう意味では環境面でも価値があります。


海外市場を視野に入れた木の糸デニム

日本デニムは世界で人気がある

A氏
木の糸デニムは、どのような市場を考えていますか。

岩見
基本的には海外市場を意識しています。というのも、日本のデニムは海外で非常に評価が高いからです。特にヨーロッパやアメリカでは、「Japanese Denim」というブランド価値があります。

A氏
確かに、海外のデニムファンの間では日本デニムは特別な存在ですね。

岩見
そうですね。日本のデニムは品質が高く、織りや染色の技術が優れていることで知られています。特に評価されているのがセルビッチデニムです。


セルビッチデニムへの挑戦

A氏
セルビッチというのは、いわゆる耳付きデニムですね。

岩見
そうです。旧式のシャトル織機で織られたデニムで、生地の端に耳(セルビッチ)ができるのが特徴です。大量生産の織機とは違い、生産速度は遅いのですが、糸に負担をかけずに織ることができるため、独特の風合いが生まれます。

今回、私たちは木の糸を使ったセルビッチデニムにも挑戦しました。

A氏
それは興味深いですね。

岩見
配合としては、綿70%、木の糸30%という割合です。シャトル織機は糸に負担をかけずにゆっくり織り上げるため、木の糸との相性が非常に良いことがわかりました。


シャトル織機と木の糸の相性

A氏
織機によって糸への負担が違うのですね。

岩見
そうです。高速のエアジェット織機などは生産効率は高いのですが、糸に大きな負荷がかかります。一方、シャトル織機はゆっくり織るので、糸に優しい。木の糸のようなセルロース繊維には、むしろ適した織り方だと感じました。

A氏
つまり、木の糸はセルビッチデニムとの相性が良い可能性があるわけですね。

岩見
そう思います。これは非常に面白い発見でした。

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