私は、日本の森林産業が長く停滞してきた最大の理由は、「出口戦略の単一性」にあると考えています。日本の林業は長い間、木材を建材として供給する産業として発展してきました。戦後の住宅不足と高度経済成長の中で、住宅建設は社会の重要な基盤であり、木材需要は森林産業を支える強力な市場でした。しかし現在、日本は人口減少社会へと移行し、住宅着工数は長期的に減少傾向にあります。住宅の寿命も延び、建替え需要も縮小しています。このような社会構造の変化の中で、建材需要だけに依存する森林産業には、明らかに限界が見え始めています。
それにもかかわらず、日本の森林産業は依然として「木材=建材」という単線的な構造から抜け出せずにいます。本来、森林は単なる木材供給の場ではありません。森林は多様な価値を持つ資源の集合体であり、その潜在力は極めて大きいものです。しかし、日本では森林を「材料」として扱う視点が強く、「資源」として総合的に捉える発想が十分に育ってきませんでした。この認識の差こそが、森林産業の可能性を大きく制限していると思います。
森林を資源として捉え直すとき、その価値は大きく三つの領域に広がります。第一は、これまで林業の中心であった構造資源としての価値です。建材、合板、家具など、木材は人間の生活基盤を支える重要な材料です。第二は、化学資源としての価値です。木材の主成分であるセルロースやリグニンは、繊維素材や化学材料として多様な可能性を持っています。衣料用繊維、バイオプラスチック、新しい機能材料など、森林から生まれる素材は次世代の産業基盤になり得ます。第三は、生態資源としての価値です。森林は水源を守り、炭素を固定し、生物多様性を維持し、人々に学びや癒やしの場を提供します。このように森林は、構造資源、化学資源、生態資源という複合的な価値を持つ、極めて豊かな資源なのです。
世界の資源産業を見ると、資源は必ず複数の出口を持っています。石油は燃料であると同時に化学産業の基盤となり、農産物も食料だけでなく飼料やエネルギーとして利用されています。資源が持つ価値を多面的に活かすことで、産業は安定し、持続的な成長が可能になります。しかし、日本の森林産業は長い間「木材=建材」という単一の出口に依存してきました。この構造のままでは、森林資源の持つ本来の価値を十分に活かすことはできません。
私は、森林産業の未来は「出口の複線化」にあると考えています。建材としての利用はこれからも重要な柱であり続けます。しかしそれに加えて、繊維素材、バイオ材料、化学素材、エネルギー、さらには環境価値や教育・観光といった多様な出口を持つことで、森林は初めて総合的な資源として社会に貢献することができます。森林を単なる木材の供給源としてではなく、「持続可能な資源基盤」として捉え直すこと。それがこれからの森林産業に必要な視点です。
日本は国土の約三分の二が森林に覆われた国です。特に人工林は戦後に大量に植えられ、いま成熟期を迎えています。これは単に木材が増えているということではありません。言い換えれば、日本には膨大なセルロース資源が存在しているということでもあります。この資源をどのように社会の価値へと変えていくのか。その問いに答えることが、これからの森林産業の使命だと考えています。
グリーンベネフィットは、森林を「資源」として再定義することから事業を考えます。森林が持つ構造資源、化学資源、生態資源という多層的な価値を社会の中で活かし、新しい産業の形をつくること。それは単に環境に配慮した事業を行うということではありません。森林という再生可能な資源を基盤に、持続可能な経済の仕組みをつくることです。
森林は、未来から借りている資産だと私は思っています。だからこそ、その価値を最大限に引き出し、次の世代へとつないでいく責任があります。森林を守ることと、森林を活かすことは対立するものではありません。むしろ、森林を資源として正しく活用することこそが、森林を持続的に守る最も現実的な方法です。
グリーンベネフィットは、森林を起点とした新しい資源循環の仕組みをつくり、次の時代の森林産業の姿を社会に示していきたいと考えています。それは「木材産業」から「森林資源産業」への転換です。そしてその挑戦こそが、日本の森林に眠る本当の価値を社会に取り戻す道だと、私は確信しています。
株式会社グリーンベネフィット 代表取締役 岩見 義明
