森林火災は、森林管理の限界を映し出している

森林火災は、森林管理の限界 新着・ニュース
森林火災は、森林管理の限界

大船渡市・大槌町に見る、森林管理の限界と地域社会の課題

近年、森林火災の深刻化が各地で問題となっています。
火災の原因には、たき火、火入れ、たばこ、強風、乾燥、気候変動など、さまざまな要因があります。もちろん、火の不始末を防ぐことは重要です。

しかし、私たちが本当に見つめなければならないのは、なぜ火が大きく燃え広がるのかという点です。

森林火災は、火が出たから大規模化するのではありません。
火が入ったときに、燃え広がりやすい森林構造が存在しているから深刻化します。

その背景には、森林管理の限界があります。

大船渡の山火事が示したもの

2025年に岩手県大船渡市で発生した林野火災では、森林被害面積が3,370haに及び、岩手県資料では「平成以降で国内最大規模」とされています。被害は私有林、市有林、県有林に及び、人工林も広範囲に被災しました。これは、単なる山林火災ではなく、地域の森林資産、防災基盤、林業基盤に関わる大きな災害です。

大船渡市の森林整備計画を見ると、地域の森林管理にはすでに構造的な課題があることが分かります。同計画では、適切な森林施業を進めるために、森林施業の共同化、林業の担い手育成、林業機械の導入、作業路網の整備、地域材の流通・加工体制の整備などを総合的に進める必要があるとされています。さらに、大船渡市では5ha未満の小規模林家が約7割を占め、個別経営では生産効率が上がらず、収益を確保しにくい状況にあるとされています。

つまり、大船渡の山火事は、単に火災そのものの問題ではありません。
森林を管理し続けるための人手、収益、道、所有構造、地域産業の力が弱まっている中で起きた災害として見る必要があります。

大槌に見る、森林管理の厳しい現実

同じ岩手県沿岸部の大槌町でも、森林管理の課題は明確です。

大槌町森林整備計画では、人工林のうち12〜14齢級が全体の51%を占め、今後も間伐・保育等の積極的な推進が必要であるとされています。しかし同時に、林業経営費の上昇などにより、町内全般で施業が遅れ、間伐等の林業生産活動が停滞していることも記されています。また、造林・伐採等に不可欠な林道・作業道の整備も、なお不十分な状況にあるとされています。

さらに、大槌町森林経営管理制度実施方針では、民有林の人工林2,929haのうち、近年の施業履歴がなく、かつ森林経営計画が作成されていない森林が1,791ha、約61%を占めるとされています。

この数字は非常に重い意味を持ちます。
森林があるにもかかわらず、そこに人が入り、計画を立て、間伐し、道を整え、資源として使い続ける仕組みが十分に届いていないということです。

震災復興地域に重なる「山の復興」という課題

大船渡市、大槌町を含む三陸沿岸地域は、東日本大震災からの復興に長い時間をかけて取り組んできました。住宅、道路、港湾、防潮堤、産業、生活再建。地域社会は、多くの力を復興に注いできました。

その一方で、山側の管理はどうだったのか。

震災復興地域では、人口減少、高齢化、担い手不足、産業再建、行政負担が重なります。限られた人員と財源の中で、森林管理まで十分に手が回らない状況が生まれても不思議ではありません。

森林は、放置すれば自然に安定するとは限りません。
特に人工林は、人が植え、人が育て、人が間伐し、使いながら維持することを前提とした社会資本です。

人が入らなくなれば、林道は荒れます。
作業道は使いにくくなります。
枯れ枝、落葉、倒木、過密な立木が蓄積します。
境界は分かりにくくなり、所有者の意向確認も難しくなります。
そして、火が入ったとき、初期消火も、延焼防止も、復旧作業も難しくなります。

森林火災の深刻化は、火の不始末だけでなく、森林に人が入れなくなった社会構造の問題でもあるのです。

森林は「資源」であると同時に「防災インフラ」である

森林は、木材を生産する場所であるだけではありません。
水を蓄え、土砂災害を防ぎ、生物多様性を守り、地域の気候を和らげ、海や川の生態系にも関わる、地域社会の基盤です。

つまり森林は、社会インフラです。

だからこそ、森林管理の限界は、林業だけの問題ではありません。
それは、防災、復興、地域経済、暮らしの安全に関わる問題です。

森林火災が起きたとき、被害を受けるのは山だけではありません。
集落、道路、避難路、電力、通信、水源、観光、農業、漁業にも影響が及びます。
山の管理力が弱まることは、地域全体の安全保障を弱めることにつながります。

必要なのは、森に人と経済を戻すこと

これからの森林火災対策は、火を出さないための啓発だけでは足りません。
もちろん、火の不始末を防ぐことは重要です。しかし、それだけでは、森林火災の深刻化を止めることはできません。

必要なのは、火が入っても燃え広がりにくい森林構造をつくることです。

そのためには、間伐、枝打ち、下草管理、病害虫被害木の処理、林道・作業道の整備、森林経営の集約化、森林所有者の意向確認、地域材の利用促進、人材育成を一体で進める必要があります。

さらに重要なのは、森林管理を「費用」だけで考えないことです。

森に人が入り続けるためには、森の資源が使われなければなりません。
木材、セルロース、天然繊維(木の糸)、ポリフェノール、地域材、防災資材、教育、体験、環境価値。
森林の価値を多面的に引き出し、その利益や関心を再び森に還す仕組みが必要です。

森を守るとは、木を切らないことではありません。
森に人が入り、森の資源を活かし、その価値を森に還すことです。

森林火災は、地域社会への警鐘である

大船渡市、大槌町の森林管理課題は、特定の地域だけの問題ではありません。
全国の山村、震災復興地域、過疎地域、林業衰退地域が直面している構造的課題です。

森林火災は、山の中だけで起きている出来事ではありません。
それは、地域社会が森とどのように関わり続けるのかを問う出来事です。

森林に人が入らなくなったとき、森は資源からリスクへ変わります。
森林管理が届かなくなったとき、火災、土砂災害、獣害、水源機能の低下といった問題が地域に戻ってきます。

だからこそ、今必要なのは、森林を所有者任せにしない仕組みです。
行政、林業事業体、企業、地域住民、教育機関、消費者が一体となり、森を社会で支える仕組みをつくることです。

大船渡市の山火事、そして大槌町に見られる森林管理の課題は、私たちに問いかけています。

森を、誰が守るのか。
森に、誰が入り続けるのか。
森の価値を、どのように次世代へつなぐのか。

森林火災の深刻化は、火の不始末だけの問題ではありません。
それは、森林に人が入れなくなった社会構造の問題です。

そしてこの問題に向き合うことこそ、これからの地域防災であり、復興の次の課題であり、持続可能な森づくりの出発点だと考えます。

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