対談レポート:木の糸と循環経済 ― 森林資源から始まる新しい産業モデル

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目指しているのは、森林資源を起点とした循環型社会

松浦 「近年、世界的に循環経済への関心が高まっています。まず、「木の糸」という取り組みは、その循環経済とどのように関係しているのでしょうか?」

岩見 「「木の糸」は、日本の森林資源からセルロースを取り出し、繊維として活用することで、衣料を中心とした新しい循環型産業を構築しようとする取り組みです。従来の森林産業は、主に建材用途に依存してきました。しかし、日本の森林資源のポテンシャルを考えれば、それだけでは資源の価値を十分に引き出しているとは言えません。そこで、木材から繊維を作り、衣料として利用し、回収し、再び繊維として循環させるというモデルを構築することで、森林資源を起点とした循環経済を実現しようとしています」

松浦 「森林産業の「出口戦略」という視点ですね。日本では建材中心の構造が長く続いてきました」

岩見 「その通りです。現在、日本の木材利用の多くは建築分野に集中しています。これは決して悪いことではありませんが、産業として見ると非常に単線的です。建築需要が減れば、森林産業全体が影響を受けてしまいます。実際にそのようになってきている。つまり、出口が一つしかない産業構造は非常に脆弱なのです」

岩見 「「木の糸」は、その状況を変えるための試みです。建材とは別に、繊維という新しい出口をつくることで、森林資源の利用を複線化する。これが重要なポイントです」

松浦 「木材が衣料になるというのは、一般の人には少し驚きがあります」

岩見 「確かにそうかもしれません。しかし、セルロースはもともと植物の主要成分であり、綿もセルロースです。つまり、植物繊維という意味では同じ構造を持っています。
木材からセルロースを取り出して繊維化する技術はすでに存在しており、世界ではレーヨンやリヨセルといった形で広く利用されています」

岩見 「ただし、ここで重要なのは単なる素材開発ではありません。「木の糸」が目指しているのは、循環する産業モデルの設計なのです」

松浦 「循環する産業モデル、という点をもう少し詳しく教えてください」

岩見 「現在の衣料産業は、典型的なリニア型経済です。原料を採取し、製品を作り、消費し、廃棄する。この一方向の流れです。しかし、繊維廃棄物は世界的に大きな問題になっています。大量生産・大量廃棄の構造は、環境負荷も大きい」

岩見 「そこで重要になるのが、水平リサイクルです。つまり、衣料を衣料として再び循環させることです。
セルロース繊維は、この循環に非常に適しています。回収した繊維を再び溶解し、新しい繊維として再生することが可能だからです」

松浦 「つまり、森林 → 繊維 → 衣料 → 回収 → 再繊維化、という循環が成立するわけですね」

岩見 「そうです。この循環が成立すると、資源の消費は大きく変わります。原料となるセルロースは森林から供給されますが、森林は再生可能資源です。適切に管理すれば、枯渇することはありません。さらに、衣料として使われた後も繊維として再生されるため、資源の利用効率は非常に高くなります。これは、従来のリニア型産業とは根本的に異なる構造です」

松浦 「循環経済という概念は欧州でも盛んに議論されていますが、日本の森林資源と結びつく点が興味深いですね」

岩見 「そこが重要なポイントです。循環経済はしばしばリサイクルの問題として語られますが、本来は資源設計の問題です。どの資源を使うのか。その資源は再生可能なのか。循環させることができるのか。
こうした設計がなければ、循環経済は成立しません。
日本の場合、森林が国土の約7割を占めています。これは世界的に見ても非常に恵まれた条件です。
しかし、その資源は十分に活用されているとは言えません」

松浦 「森林資源を循環経済の基盤として再定義する、ということですね」

岩見 「その通りです。森林は単なる木材の供給源ではありません。セルロースという巨大な資源の供給源でもあります。もし、このセルロースを繊維産業と結びつけることができれば、日本の産業構造は大きく変わる可能性があります」

岩見 「特に重要なのは、資源の国内循環です。日本はエネルギーや鉱物資源の多くを輸入に依存していますが、森林資源だけは国内に豊富に存在します。つまり、セルロース繊維の循環モデルが成立すれば、衣料の分野で資源の自給に近い状態を実現できる可能性があるのです」

松浦 「それは資源安全保障の視点にもつながりますね」

岩見 「まさにその通りです。私はこの取り組みを単なる環境ビジネスとは考えていません。
むしろ、資源安全保障の政策課題だと考えています。衣料は人間の生活に不可欠な基礎資源です。
食料やエネルギーと同様に、本来は安定供給が必要な分野です。もし、原料を国内資源でまかなうことができ、さらに循環する仕組みができれば、非常に強い産業基盤になります」

松浦 「森林政策とも深く関係してきますね」

岩見 「そうです。日本の森林政策は長く木材利用を中心に考えられてきました。しかし、これからはもう少し広い視点が必要です。森林は炭素吸収源であり、生態系の基盤でもありますが、同時に循環型資源の供給基地でもあります。木の糸の取り組みは、その可能性を具体的な産業モデルとして示そうとするものです」

松浦 「最後に、木の糸の取り組みが将来的にどのような社会を目指しているのか教えてください」

岩見 「目指しているのは、森林資源を起点とした循環型社会です。森林から生まれた資源が、産業として活用され、製品となり、使用され、再び資源として循環する。その流れの中で、森林の価値も高まり、地域経済も活性化する。つまり、環境と産業が対立するのではなく、循環の中で共存する社会です。
「木の糸」は、その社会を実現するための一つの実証モデルだと考えています」

聞き手:松浦 拓馬

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